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家を建てるときの構造計算、あなたは生かしますか?殺しますか?

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最近の木造住宅では、大手を中心に構造計算をするところが少しずつ増えてきました。
「うちは構造計算をしているから強い家です。」とか、「うちは地震に強い構造計算をしています。」など、いろいろな営業トークが使われています。

確かに、巷には高価な構造計算ソフトが販売され、これから建てようとする家の図面をパソコンに入力することによって、きちんと許容応力度計算に基づいた構造計算をすることが可能です。
ここで、「コウゾウケイサン」って何?と思われる方は、6月にアップされていた記事「構造計算をしていなくても木造住宅は建てられる、それって本当のこと?」をご覧下さい。

しかし、構造計算をすれば、本当にそれだけで良いのでしょうか?
本当に強い家になるのでしょうか?

今回は、構造計算をした上で、家を建てることを前提に、少々物騒なタイトルでお話したいと思います。

木材の強度について

先日の記事にあったとおり、許容応力度計算とは、「建築物にかかる固定荷重や積載荷重に長期荷重、及び地震力などの短期荷重を想定して応力(部材内部に生じる抵抗力)を算出し、それぞれの部材がそこにかかる応力に耐えられるかの許容応力度(限界点)を比較する」ものです。
「許容応力度」は木造の場合、構造体になる木材の断面に大きく影響してきます。
当然、同じ強さの木材同士ならば断面が大きいほうが強いです。

ここで、少々余談ですが・・・。
木材が外部から力を受けた時にどのくらいたわむのかを、簡単に計算してみましょう。

例えば、木造住宅で良く使われる柱のサイズ105mm角の柱を横に使って、橋げた間が3mの小さな一本橋を作ったと仮定してみます。
ちょうど橋のド真ん中に体重100kgの人が立ったとしたら、いったいどのくらいたわむのでしょうか?

構造画像①.jpg

その際に必ず決めなければならない条件があります。
計算の前提として、この柱は「どのくらいの強度があるか」が必要です。
木であろうと鉄であろうと、そのものの強度がわからないと計算が出来ないからです。

どのくらい強度があるのかに関しては、構造計算の世界では「(曲げ)ヤング係数」という数値を用います。
これは、木材が外部から力を受けたときにどのくらいたわむかというのを係数化したもので、同じ断面で同じスパン(長さ)ならばその数字が大きいほどその材料は曲がりにくい=強いというものです。

単純に材料を横にして真ん中に加重をかけた場合の計算式は決まっているので、ちょっと計算してみましょう。

体重100kgの人はニュートンに換算すると約980Nです。
そこに、少し強い杉柱、ヤング係数として7.0(×1000N/mm2)のものを使用します。
使用する柱は105mm角なので、材料の幅も高さも105mmです。
柱の長さは3m=3000mmとします。
これらの数値を計算式に代入してみます。

構造画像②.jpg

このように、杉の105mm角でできた一本橋、橋げた間3mの橋のド真ん中に体重100kgの人が乗ると、この橋は約7.8mmたわむと計算できます。
この計算式では、同じ断面でヤング係数によってどのくらいたわみが変わっていくのかが計算できるのです。

以下の数値は、先ほどと同じ条件で、ヤング係数だけを変えたときのたわみの変化です。

E=40の場合  約13.6mm
E=50の場合  約10.9mm
E=60の場合  約 9.1mm
E=70の場合  約 7.8mm
E=80の場合  約 6.8mm
E=90の場合  約 6.1mm
E=100の場合 約 5.4mm

ヤング係数が大きい材料を使うほど、荷重をかけた場合にたわみの幅が小さくなっていくのがお分かりでしょう。
だから、ヤング係数の高い材料はそれだけ強いのです。

断面が真四角の柱を長四角の梁に変えてみると、もっと興味深い結果になります。
例えば、先ほどと同じヤング係数=7.0(×1000N/mm2)、105mm×300mmの断面の杉の梁を例にとってみると、縦に置くか、横に置くかでたわみの大きさが変わってきます。

構造画像③.jpg

先ほどの計算式にこの数値を代入して計算してみます。

縦置きの場合
たわみ=0.33mm

横置きの場合
たわみ=2.72mm

このように同じ断面であっても、直方体の材料を使うときには横に使うよりも縦に使うほうが圧倒的に強いことが分かります。
だから、実際に家に使われる時の梁や桁の向きは縦方向なのです。

構造画像④.jpg荷重に対する木材のたわみとヤング係数について少しお話しましたが、実際の住宅でも部材の一本一本にかかる荷重を計算して、たわみが規定以内に納まっているかどうかを確認することが出来るのです。
これは構造計算のわかりやすい一例ですが、このような考え方を組み合わせて構造計算は成り立っているのです。

ヤング係数と言う言葉を耳にしたことはありますか?

さて、ここで先ほど計算するときに使った木材の「ヤング係数」について少しお話しします。
少し考えてみてください。

木材は皆さんご存知の通り、原材料は山に生えている「木」という天然物です。
「木」は山にたくさん生えていますが、元々は一本一本が生きている植物です。
同じ山であっても適度に間隔を保ちながら生えていますので、それぞれ生えている場所も土壌も風の流れも日の当たり方も地面の傾斜もみんな少しずつ異なります。

そうやって木々は一本一本が異なる環境の中で成長していくので、同じ山から切り出したからと言って、全く同じものは一本もありません。
全て個性を持った生き物なのです。

その木が、伐採され製材されて、家に使う材料になっていくのですが、柱の一本一本、梁の一本一本は木目も節の大きさも目あいも、ひとつとして同じものは無いのです。

そこで先ほどのたわみの計算の過程を考えてみましょう。
計算の中で条件としてヤング係数を入れました。
仮に杉なら7.0(×1000N/mm2)と入れましたが、現物はそうとも限らないのが天然由来の材料の特性です。

実際に私も大きな製材所で選別するところを見てきました。
工場ではたくさんの材料がヤング係数を測定する機械を通過しながら、ヤングを測定されます。
その結果を見ると、実は一本一本が結構バラバラなのです。強いものもあれば弱いものもある。
最も多くの数が出てくる強度帯も伐採された地域や切り出されてくる山によって違っているのです。

考えてみたら、当然のことです。
同じ樹種だからと言って全部同じとみなすのは、無理があります。

木材の強度はJASで保証されているの?

このような現状がある中、平成の初め頃ですが農林水産省は構造用製材製品のJAS(日本農林規格)を作成しました。
それぞれ一本一本が異なる製材品をランク分けするものです。
当時の基準はヤング係数を高速度で測定できる機械が無かったので、目視によって木材を選別するものでした。
選別する基準は曲がり・反り・節や入り皮などの欠点の大きさを、見た目で判断するものです。
この基準は「木なら樹種が同じなら強度もみんな一緒」というような考え方を改めるものでした。
これまで一緒くただった構造用製材品を選別できるようになったのです。

その流れは現在も続いています。
現在の構造用製材品のJAS規格は、平成19年に改正されたものです。
平成19年改正のJAS規格について少し説明します。

現在のJASを簡単に説明すると、次の2つの分け方があります。

1、「目視等級区分」

製材品を節などの強度に影響する欠点の大きさによって、目で確認しながら3段階にランク分け。

2、「機械等級区分」

機械選別機を使ってヤング係数別にランク分け

この2つの選別方法によって、バラバラの品質のものが集まった製材製品の山を、等級別に分類することが出来るのです。

ところが、木材を構造材として正確に構造計算をするには、木材を選別したデータだけでは足りません。構造材には縦方向・横・長さ方向など様々な方向から力が加わるので、それぞれ力が加わる方向に対する基準となる強度が必要だからです。

そして、JASの基準によって選別された木材を構造計算に使用するために、国土交通省がJASにあるそれぞれの等級に対して「基準強度」を規定しました。
この「基準強度」が木造住宅に使用する材料の強度の根拠となり、構造計算の元になるものなのです。

構造画像⑤.jpg

これは「基準強度」のごく一部(一部抜粋)です。
少々難解なものです。

構造用製材製品のJASでは、目視による等級分けかヤング係数による等級分けまでしか作られていません。
それを、製材品のJASの各グレードに、構造計算に必要な圧縮・引張り・曲げ・せん断に関して、構造計算に使用する数値が設定されました。

例えば、上の表の「あかまつ」を例に見てみましょう。
尚、JAS目視等級区分の甲種構造材(横荷材)の一級材を使用する前提とします。
Fc(圧縮)  → 27.0
Ft(引張)  → 20.4
Fb(曲げ) → 33.6
Fs(せん断) →  2.4(N/㎜2)

これらの数値を基準強度として構造計算すれば良いのです。
ちなみに、それぞれの等級には目視の選別基準がありますが、簡単に言うと一級は「欠点が少ない材料」で、三級は「それなりの材料」のイメージで良いと思います。

同様に、機械等級区分を見てみると以下のような表(一部抜粋)があります。

構造画像⑥.jpg

同じ樹種でも、ヤング係数によって基準となる強度が変わっています。

先ほどと同様にJAS機械級区分材を使用する前提とします。
上の表の「あかまつ」E110材を例に見てみます。

Fc(圧縮) → 24.6
Ft(引張) → 18.6
Fb(曲げ) → 30.6
Fs(せん断) → 2.4(N/㎜2)

この数値を基準強度として構造計算すれば良いのです。

逆に言えば、構造計算をするときには、建築する前にあらかじめJASのどのグレードの木材を使用するのか決めておかないと構造計算が出来ない、若しくは計算してもその意味が無いのです。

しかし、問題点があります。
特に杉や桧のような国産材はJAS選別された材料が一般には少量しか流通していません。
わざわざ手間隙かけてJAS選別しても市場で高く売れないため、JAS選別を行わないのです。
結局、一般に流通している木材はJASでの格付けがなされていないものが大半です。

ところが、そのようなJASによる格付けをしていない木材にも、国土交通省は構造計算のために基準強度を設定しました。
JASによる格付けをしていない木材を「無等級材」と呼びます。

これが無等級材の基準強度(一部抜粋)です
構造画像⑦.jpg

上の表の「あかまつ」材を例に見てみます。
Fc(圧縮) → 22.2
Ft(引張) → 17.7
Fb(曲げ) → 28.2
Fs(せん断) → 2.4(N/㎜2

無等級材を使用する場合は、この数値を基準強度として構造計算すれば良いことになっています。

実は、構造計算をしていると謳っているビルダーが杉や桧のムク材を使用する場合、構造計算の基準強度として、この「無等級材」の数値を使っています。

「無等級材」がどのような品質基準の材料なのかは明確にされず、無等級材を使用して構造計算をする場合の数値だけを国が規定しました。

すなわち、住宅建設会社やビルダーがどのような基準の「無等級材」を使うかは、各社の良心に任されているということなのです。

構造計算をすることは必要なこと。でも、あなたがキチンと構造計算の意義を知る事も重要です。

これが木造住宅にとってもっとも重要な「構造」についての現実です。

想像してみてください。
構造計算した家にもかかわらず、最も重量がかかる重要な部分に、たまたま見た目は綺麗だけれども、実は中がスカスカですごく弱い木材が使われていたら、どうなるでしょう?

おそらく普通に建っている時には崩れることはないでしょう。
しかし、大地震の時などに、実は強度がなかったその木材が折れて、結果家が倒壊してしまう、なんてことになるかも知れません。

では、エンドユーザーである私たちはどうすれば良いのでしょうか?
それは、家を建てるときに使われる材料の品質を自ら把握すること。
その手段は3つあります。

1、構造材に集成材を使うこと。

構造に使用する集成材は全てJAS品であることが義務付けられています。
ヤング係数も格付け保証されているので、集成材を使用すれば安心です。

2、構造材にJAS選別品を使うこと

構造材にJAS格付け品を使うよう、家を建ててくれる住宅建設会社やビルダーに指定することです。JAS製品には現物にJASのマークと等級が、印字かシールで明示されていますので現場で確認することができます。

3、「特殊選別木材」を使用すること

ごく一部ですが、ムク材の中からJASの機械等級区分よりも更に厳しい基準で選別した木材を販売している業者があります。

含水率とヤング係数はJASと同様なのでJAS表示されているものもありますが、JAS格付け製品を更に厳しい規格で選別して作られています。

供給できる製材メーカーが決まっていることと、供給能力が少ないことからなかなか手に入らない特殊な木材ですが、もしご自宅に使いたい場合には工務店さんにご相談下さい。

  

家を建てるとき、キッチンやユニットバスなど、毎日使うところに目が行きがちです。
でも、見えない部分、特に家の基幹となる部分にも少しだけ目を向けてみましょう。
あなたの大切な家。
長い目で見て何が一番重要なのかを考えて、そこにお金をかけるかどうかを決めた方が良いと思います。

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