実家を相続するとき
兄弟姉妹等で遺産分割するにあたり、遺産が不動産のとき、建物や土地を実際に分割することは難しいですよね。そのため、不動産の遺産分割にはトラブルが発生しやすくなります。それでは実家を相続するとき、どのようなことに留意したらよいのでしょうか?今回は、実家を相続するときの留意点などについて、お伝えしたいと思います。
1.実家を相続するときの選択肢は?
先ず、実家を相続する場面に遭遇したときに、実家をどのように処遇するかについて、決める必要があります。選択肢としては次のようなことが考えられます。
(1)居住 (2)賃貸 (3)売却 (4)処遇を保留
※実家の想い出を残して、住みやすいように減築やリフォームして居住したり、賃貸して活用したり、売却処分することなどが考えられますが、後ほど述べる共有相続した場合には注意が必要です。また、決断しきれずに処遇を保留して保有する場合には後ほど述べる不利な状況が生じる可能性があります。
2.実家を相続するときの流れは?
一般的な流れは次のようになります。
(1) 遺言書の確認
(2) 相続人を確定
(3) 相続財産の確認 〔⇒3-(1)不動産相続税評価〕
(4) 遺産分割協議 〔⇒3-(2)遺産分割方法〕
(5) 相続登記 〔⇒3-(3)義務化〕
(6)(基礎控除を超える場合)相続税の申告・納付
〔⇒3-(4)相続税の基礎控除、⇒3-(5)小規模宅地等の特例〕
3.実家を相続するときの留意点は?
(1)不動産の相続税評価方法
相続財産として不動産の価値を評価する必要があり、評価方法は次のようになります。
①土地の評価方法
一般的に、被相続人が居住していた土地の相続税評価方法は2種類あり、「路線価方式」と「倍率方式」のどちらかで評価します。
ア)路線価方式:路線価が定められている地域の土地を評価する方法
路線価とは路線(道路)に面する標準的な宅地の1㎡あたりの価額のことで、国税庁が公開している路線価図には千円単位で表示されています。
【計算方法】「評価額」=「正面路線価」×「各種補正率」×「面積」
イ)倍率方式:路線価が定められていない地域の土地を評価する方法
【計算方法】「評価額」=「固定資産税評価額」×「倍率」
②建物の評価方法
一般的に、固定資産税評価額と同じになります。
【計算方法】「評価額」=「固定資産税評価額」×「倍率1.0」
(2)遺産分割の方法
遺産分割の方法には、主に次のような種類があります。
①現物分割:相続財産をそのまま分割する方法
〈 メリット 〉遺産分割が分かりやすく、手続きが簡単です。
〈デメリット〉遺産によっては、法定相続分とおりに分けることが難しいです。
②換価分割:相続財産を売却して現金化し、金銭を分割する方法
〈 メリット 〉遺産を法定相続分とおりに分けることができます。
〈デメリット〉処分費用や譲渡所得税等の支払いにより、遺産が減少する可能性があります。
③代償分割:遺産を取得した相続人が他の相続人に対して自己の財産を引き渡す方法
〈 メリット 〉遺産を法定相続分とおりに分けることができます。
〈デメリット〉遺産の評価額が争いとなることや代償額が支払えない可能性があります。
④共有分割:不動産などを相続人間で共有する方法
〈 メリット 〉遺産を法定相続分とおりに分けることができ、遺産をそのまま残せます。
〈デメリット〉下記のようなルールに従わなければならず、手続き上の煩雑さがあります。また、共有持分に相続が発生すると共有者が増えていく可能性があります。
※遺産共有物のルール
ⅰ)著しい変更・処分のとき:共有者全員の同意が必要
ⅱ)管理するとき:共有持分価格の過半数の同意が必要
ⅲ)保存するとき:他の共有者の同意は不要
ⅳ)分割するとき:裁判による共有物分割は不可(*10年経過後は可能な場合があります。)
(3)相続登記の義務化
2024年4月1日から、相続したことを知った日から3年以内に相続登記することが義務化されました。
*正当な理由なく義務に違反した場合、10万円以下の過料が科されることがあります。
(4)相続税の基礎控除
基礎控除とは、相続税が免除されるボーダーラインのことで、次のように計算されます。
【計算式】「基礎控除額」=「3000万円」+(「600万円」×「法定相続人数」)
「遺産総額」>「基礎控除額」⇒超える金額について、相続税を申告・納付
「遺産総額」<「基礎控除額」⇒申告・納付ともに不要
(5)小規模宅地等の特例
被相続人または被相続人と同一生計の親族が居住していた家の土地のうち、次の適用要件に該当する場合、下記の面積までの部分については、相続税の課税価格に算入すべき価格の計算上、一定の割合を減額することができます。
①適用要件
ア)被相続人や同一生計の親族が住んでいた土地を配偶者が相続
イ)同居の親族が相続した土地に居住
ウ)同一生計の親族が相続した土地に居住
②対象面積:330㎡(上限)
③減額率:80%
(6)処遇を保留する場合のリスク
処遇を決断しきれずに漫然と保有していると次のようなリスクが考えられます。
①相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
相続により取得した不動産を一定期間内に譲渡した場合に、相続税の一定金額を譲渡資産の取得費に加算することができます。
ア)一定期間:相続の一定の期日以後、3年を経過する日まで
イ)取得費に加算する相続税額:
【計算式】「相続税額」×(「譲渡した不動産の相続税評価額」/「取得財産等の価額」)
②空き家を放置すると...
外壁崩落・倒壊などの安全面、ねずみ・害虫発生などの衛生面や不法侵入・犯罪拠点などの防犯面などで周囲に悪影響を与える可能性があります。また、次のような場合に、固定資産税等の軽減措置の対象外となることがあります。
ⅰ)管理不全空家:窓や壁が破損しているなど、管理が不十分な状態
ⅱ)特定空家:そのまま放置すると倒壊等のおそれがある状態
4.まとめ
今回は、実家を相続するときの留意点などについて、お伝えいたしました。
実家は「心のふるさと」ですので、想い出とともに大事に引き継ぎたいものです。実家を相続するときに上記に留意して、悔いの残らないような選択をしてください。



